2021 年間ベストアルバム 30

いよいよ40代男性です。聴いたことのない音楽を聴きたいという欲求のままに、色々気になったものを聴いています。そんな時に Spotify なんかは大変便利ですが、気になった音楽を見つけても一度合わないかもと判断してしまったら余程のことがないと聞き返さなくなったかもしれません。
さて2021年の年間ベストですが、基本的にハウスが好きで、ここ数年はアンビエントやドローンも楽しく聴けているのでその辺が反映されたベストになったかと思います。


30. Neo Geodesia - 2562 Neon Flames

カンボジア難民の息子である Neo Geodesia こと Saphy Vong は、祖国の新年の祝祭のさなか母親を喪ってしまう。伝統的なクメール音楽や街の喧噪、テレビからの音声、葬儀での音楽などをサンプリングし、深い悲しみと祝祭感が共存する混沌とした世界を表現した。
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29. Uffe - Words And Endings

デンマークのアーティストによる3rdアルバム。6年前に年間ベストに選んだときは、もっと普通の(?)ビートダウンハウスだったと思うが、すっかりジャズ、アフロ、ダブ、ベースミュージックを取り込んだミュータントなハウスになっている。特にジャズは色濃く、繰り返されるフレーズに自然と体が揺れてしまう。
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28. GRAPEVINE - 新しい果実

正直何枚目かよく覚えてないが2年ぶりのアルバム。夏前のリリースだったと思うが、秋も深まって寒さを感じてきた頃にすごく良いと思えた。アルバムの終盤に配されているような曲だけで構成されているような感じ。どれがシングル曲なのか分からないくらいに全体のクオリティが高く統一感がある。
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27. Alyssa Moxley - Underdrift

フィールドレコーディングの醍醐味といえば、多種多様な環境の音を聞けることにあると思うが、それが自分が絶対に訪れないような場所なら尚良い。場所はギリシャの火山島であるニシロス島。そこで生活する人々や動物、火山活動などの音のそれぞれが独立せずに関わり合うことで、見知らぬ土地の景色や営みが目に浮かんでくるようだ。
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26. Black Rave Culture - Black Rave Culture

NYCのスケボーと音楽を愛するレーベル HAUS of ALTR からのリリース。Amal、James Bangura、DJ Nativesun の3人からなるグループで、ユニット名そのままにテクノ、ハウス、ドラムンベースなど、ダンスミュージックの歴史を紐解いて現代風に再現している。どの曲もアッパーで最高に踊れる。
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25. Mariel Roberts - Armament

チェロによる即興が4曲。武器・兵器をテーマとしているだけあり、終始不穏で暴力的であり緊張感が漂っている。電子音とチェロから発せられる音が渾然一体となっているが、まれにくっきりと聴こえる弦の音や演奏がとても美しい。
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24. Vanessa Rossetto - Legends of American Theatre

アメリカの実験音楽家によるフィールドレコーディングや物音のサウンドスケープが2曲。大きい通りから少し入ったであろう路地のようなところで、ひたすら花火なのか銃の発砲音のような音を重ねていたり、延々と男女が罵りあっていたりと緊張感が充満している。作家による人為的な音が重ねられることで幾分空気は和らぐが、この閉塞感はまさに現代の社会を表しているように思う。
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23. Loraine James - Reflection

前作同様にいかにもUKなIDMサウンドが特徴的だが、今作はさらにR&Bやドリル、グライムの影響が色濃く、一人でUKダンスミュージックをリバイバルしてるんじゃないかと思えるほど。明るく楽しいダンスミュージックとは言えないが、多くの人が満足できるアルバムだと思う。
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22. Danilo Plessow - fabric presents Danilo Plessow (MCDE)

Motor City Drum Ensemble こと Danilo Plessow が fabric のミックスシリーズに。レコードコレクターとしても有名なだけあり毎回コンピにレア音源を使用しているが、今回も幅広い年代とジャンルからセレクトしている。Kaitlyn Aurelia Smith、Rhythm & Sound、Powder、Cabaret Voltaire、Roy Davis Jr. などによるハウスミックス。
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21. Bad Tracking - Bad Tracking

ブリストルの先鋭的な地下レーベル Avon Terror Corps からリリースされたセルフタイトルアルバム。1曲目からずっとノイズとインダストリアル。中盤の10分を越える「Network」にて、やはりブリストルで活動するコルネット奏者が参加することが良いアクセントとなり、引き続きノイズとインダストリアルの海に沈んでいくことができる。
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20. DJ Marcelle / Another Nice Mess - Explain The Food, Bitte

Nyege Nyege のレジデントも務めるオランダ出身の DJ Marcelle の3rdアルバム。土着的な雰囲気も匂わせつつ、自分が楽しむことが最優先とでも言うような作品。終始がちゃがちゃとした、文字通り実験的でユーモアしかないエレクトロニックミュージック。
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19. Prequel - Love Or (I Heard You Like Heartbreak)

オーストラリアのDJ、プロデューサーが Rhythm Section より満を持してリリースした1stアルバム。合間に短いインタールードを挟みながら、愛についてのムーディーな、ジャジーな、ラテンな、オールドスクールなディープハウスが満載。特にレーベルの特徴でもあるジャズ、ラテン色は濃厚で、エキサイティングでハッピーなダンスミュージックを堪能できる。
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18. Shuta Hiraki - 白炭

時間と共に耳の中が少しずつ音で満たされていくような、さまざまな素材をコラージュさせたドラマチックな長尺トラックが2曲。アンビエントやコンクレートのDJミックス的な感覚で聴いているのだけど、1、2分ほどのスパンで音に変化がある割に、ゆったりと場面転換しているように感じられて面白い。
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17. Tomaga - Intimate Immensity

メンバーの死によってまさかのラストアルバムとなってしまった。アフロポリリズムなパーカッションとブックラのセッションは、力強さと浮遊感が両立したミニマルなジャズ、ロック、アンビエントを奏でている。残された Valentina Magaletti は今年、CZN や Moin などで多くの作品をリリースしたが、やはり本作が一番好きだったので悲しみは大きい。
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16. Krikor Kouchian - 蝉が死んでいくのを聞きながら

L.I.E.S. などからリリースするフランス人プロデューサー Krikor Kouchian。今年の夏、彼が来日した際に録った蝉とムカデの音を素材としたアンビエント、ドローン、コンクレート。蝉の声から始まるテクノも面白い。作家の意図は分からないが、ヒグラシとカラスの鳴き声に強烈なノスタルジーがこみあげてくる。
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15. Orlando Voorn - The Master

オランダにおけるデトロイトテクノ・ハウスの大ベテランの新作。これまでの長い活動、多くの名義の中でも、ここまでソウルやファンク、ジャズを取り入れたコテコテのディープハウスはなかなかないのでは。ボーカルの客演やサンプリングも多く、うねるベースラインが気持ち良い。
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14. LAMIEE. - Fisica

冒頭のタイトルトラックこそ細切れにされたパーカッションの嵐が20分ほど続く異質な曲だが、アルバムとしては魔女にまつわる民間伝承をモチーフとしている。ノイズやグリッチが、ホルンやフルート、オルガンなどの器楽と上手く融合し、重苦しさとヨーロッパの田舎の閉鎖的な空気を上手く演出している。
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13. Aaron Dilloway & Lucrecia Dalt - Lucy & Aaron

ノイズアーティストの Aaron Dilloway と、自身の声を利用する実験音楽家 Lucrecia Dalt のコラボ作は、それぞれの良さを生かしつつ、オリジナリティ溢れる音楽を聴かせてくれた。テープループのへろへろ感やチリチリとしたノイズ、装置の駆動音や操作音のようなものに歌や会話の断片など。妖しい儀式の一部始終の録音テープを聞かされているようだ。
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12. Ausschuss - Cruise

Haunter Records や C.A.N.V.A.S. での音源を聴いて気になっていたドイツの Ausschuss の新作。インダストリアルやトライバルなダンスホールやクドゥロがスピーディーに展開する。最初に試聴したときは、そのミニマルさもあってスカスカで物足りなさを感じていたが、今ではベースとドラムのリズムが体を突き抜けていく。
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11. Jana Rush - Painful Enlightenment

フットワークというジャンルにある猥雑なイメージを惜しげもなく披露するかのように、ジャズやゲーム、ポルノの音声をサンプリングしている他、インダストリアルなノイズをフットワークのリズムに乗せていたりと、かなり忙しない印象だ。長い期間鬱病で苦しんでいるらしく、本作はそんな彼女の叫びのようにも聞こえる。
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10. Alina Kalancea - Impedance

イタリアを拠点とするルーマニアのサウンドアーティストによる2ndアルバム。ブックラによるリズミックで力強いテクノ的な曲や、ゴシックなダークアンビエントに電子音がループするドローンなど。一部の曲がミックスされていたりと、映画のサントラのような物語性のある構成にぐいぐい引き込まれる。
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9. Grotta Veterano - Bleiweisova Cesta

昨年デビューしたイタリアの音楽家兼建築家 Grotta Veterano のアルバム。今年フィジカルのみでも6作ほどリリースしている多作家。主にクラシカルなピアノとフィールドレコーディングを組み合わせたアンビエントで、作品によってピアノとフィーレコの割合を変化させている。本作はややピアノ演奏寄りのバランスで、雪を踏みしめる足音と共に、ピアノの音がゆっくりと電子音に置き換わって行くさまが美しい。
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8. Rat Heart - Rat Heart

UKの Tom Boogizm によるプロジェクトの1stアルバム。個人の創作物っぽさ溢れる、もこもことしてひねくれたエレクトロニックミュージックが満載。そもそも Tom Boogizm が色々なジャンルを飛び回るため、本作もジャンルレスな作品となっている。ローファイでパーティー好きな Actress って感じ。
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7. Scorpion Kings x TRESOR - Rumble In The Jungle

Kabza De Small と DJ Maphorisa からなる Scorpion Kings と、コンゴ出身の歌手 TRESOR のコラボレーション。淡々としたパーカッシブなサウンドと情緒あふれるボーカルの相性は抜群で、ハイライトとなるような曲は無いがアルバム全体のテンションが統一されていて何回も繰り返し聴いてしまう。
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6. LeRon Carson - Under the Conditions

大正義 Sound Signature からシカゴ出身のプロデューサーの1stアルバムがリリース。Daft Punk や Jamal Moss を彷彿とさせる瞬間のある、ささくれだったような質感のハウスが満載。ほとんどが80年代後半に制作した楽曲らしいが、熱狂的とも言える正真正銘のダンスミュージック。
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5. Scotch Rolex - TEWARI

Hakuna Kulala からリリースされた本作は、日本人プロデューサー Scotch Rolex が多くの Nyege Nyege のアーティスト達とコラボレーションして生み出された。東アフリカの空気を下敷きにしたメタル、ノイズ、インダストリアル、ダンスホール、グラインドコアを駆け巡るヘビーでハードな傑作。
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4. Martinou - Rift

スウェーデンのアーティストによる1stアルバム。そこそこハードで、メランコリックで、薄く霧がかかったような湿度のあるサウンド。ダブテクノやアンビエント寄りのハウスを聴いているかのように錯覚してしまう瞬間がある。家や車で聴くのも良いけれど、クラブで明け方に聞いてみたいダビーでミニマルな音響系のディープテクノ。往年の Prologue や、Giegling 系列レーベルの作品っぽい。
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3. Madteo - Head Gone Wrong By Noise

最初に針を落としたときは回転数を間違えたのかと思い、数曲経ってから最初の回転数で合っていることに気付いた。彼特有の粘着質なサウンドは健在で、ぼそぼそとしたボイスサンプル、リズムだけ残して他は全部潰したようなローファイなハウス、ディスコ、ヒップホップが並ぶが、そのどれもが生身の人間的な魅力で溢れている。
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2. Time Cow & Giark - Glory

Equiknoxx クルーの中心人物 Time Cow と、既存のレゲエ、ダンスホールの進化を目論む Giark によるユニット。両アーティストが好きなジャンルをとにかくミックスさせたというサウンドは破壊力があり、Giark のボーカルは環境保護や闘争、抑圧からの解放などを歌い、気持ちを昂らせてくれる。上半期ベストでも書いたけれど、とにかく大きい音で聴きたい音楽だ。
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1. Walter Maioli - Il Suono Delle Api / La Vibrazione Del Cosmo

『蜂の音/宇宙の振動』というタイトル。内容は蜂の様々な羽音を録音したものと、さまざまな地域の民族・民俗音楽に根差した楽器を使用したものの二つに分けられる。それらのトラックが交互に配置されているのが面白いのだが、アルバムが進むに従い羽音と楽器の音は加工され、時代や地域性を飛び越えていく。宇宙とは、時間や空間、及びその中に存在する全てを指すそうで、そういったものを蜂の羽音に見出したのかなーなんてことを考えながらよく聴いた。
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