2020 年間ベストアルバム 30


怒りや悲しみ、不安や失望をもたらした、コロナをはじめとする様々な混乱の中、生命力と平穏を与えてくれた2020年の年間ベストです。今年は何作もリリースするアーティストが多かったので、一アーティスト一作品としました。


30. Contours - Balafon Sketches

パーカッショニストである Tom Burford のユニット Contours のアルバム。アフリカの木琴だというバラフォンを中心にガムランやチェロ、フルート、サックスなどと、シンセやドラムマシンによるセッションが繰り広げられる。リズムに身を任せ、第四世界の空気をたっぷりと味わおう。
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29. Helena Hauff - Kern Vol.5

DJ Hell や Objekt が担ってきた Tresor のミックスシリーズも5作目を迎え Helena Hauff が登場。2時間以上に渡る、暗く凶悪なインダストリアル、テクノ、エレクトロの爆撃。
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28. Villaelvin - Headroof

Elvin Brandhi と、ウガンダを拠点に勢いを増し続ける Nyege Nyege のアーティストらによるコラボ作。フィールドレコーディングの素材や楽器の演奏、ラップや話し声をバラバラに刻んで叩きつけている。静と動の緩急があまりにも激しい、分解されたアフリカ音楽。
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27. Pedroso & Pedrosa - Procuram Quati

ブラジルのデュオによる初のアルバム。ブラジル音楽に詳しくないんだけど、こんなに楽しく魅惑的なのかと。陽気なリコーダーやウクレレは良いとして、そこにねじれた電子音が絡みついている。暗くノイジーな曲から、明るくキャッチーな曲までさまざまな顔を見せる。
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26. Avalon Emerson - DJ-Kicks

USのDJ、Avalon Emerson が老舗ミックスCDシリーズに登場。テクノやブレイクス、ボーカルトラックを使用した、メロディックでポップなミックス。気分を上げたいときに最適だ。彼女自身のトラック「Rotting Hills」、「Poodle Power」は文字通りのキラートラックとしてピークタイムを演出している。
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25. Mr JazziQ & JazziDisciples - Mr JazziQ 0303

今年出会った新しい音楽のひとつが、南アフリカでは既にメジャーだというアマピアノ。DJ Mujava の「Township Funk」思い出した。軽快なリズムとムーディーなメロディにベースが効いていて最高。アルバム1曲目の「Intro」が曲名のわりにがっつり7分弱あってびびる。
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24. Vril - Bad Manners 4

Giegling や Delsin といったレーベルからリリースしていた Vril が、Marcel Dettmann 主宰の Bad Manners から。お馴染みのアトモスフェリックなテクノやダブテクノとは違い、ざらざらとした質感はそのままに、パワフルでミニマルなテクノを披露。ハードなダブテクノといった感じであまり無機質過ぎないのが良い。
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23. Vlad Dobrovolski - Natursymphony No.1 — Spring Music

スロバキアの実験音楽レーベル mappa から、ロシア出身のサウンドアーティストによる美しく瑞々しいアンビエント。音の粒は、朝露に濡れた森の中にいるような情景を浮かび上がらせる。一つ一つの音は軽やかだが、森は深く、なかなか抜け出せそうにない。
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22. Smagghe & Cross - 1819

Ivan Smagghe とクラシック出身の作曲家 Rupert Cross によるアルバム。メランコリックでインダストリアルの空気をまとった、古い記憶をさかのぼるようなアンビエント。鈍く重い音が、厚い雲のように頭上にのしかかってくる。
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21. Josey Rebelle - Josey In Space

昨年の Powder のミックスも好評だった Beats In Space のミックスシリーズ第二弾。アブストラクトなトラックから徐々にギアを上げ、90'sテクノを経由して Hieroglyphic Being へ。テンポを落としたと思いきや、ど派手なブレイクスからの Loraine James や Andrés と、黒人アーティストを中心に年代もジャンルも飛び越える70分。
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20. Shuta Hiraki - Voicing In Oblivion

自身の身近な物や環境から得た音をコラージュ。レコードやピアノ、フィールドレコーディングなど多種多様なサウンドの集合体ではあるが、ストーリーは一貫しており、時間の感覚(曲の経過時間、使用される音源の年代)を忘れてしまう。孤独感を暖かな陽光が包みこむイメージ。
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19. Philip Sulidae - Stien

イタリアの実験音楽レーベル tsss tapes から。今年リリースした他の作品では環境音をメインにしていたように思うが、本作は物音とそれに伴うノイズで溢れている。特にパーカッションを多用しており、「Damson」での遠くから聴こえるスネアの音がとても心地良い。
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18. Theo Parrish - Wuddaji

先行リリースされた「This Is For You」はソウルフルなディープハウスだったが、こいつはなかなか渋い。もこもことしたベースとパーカッションがひたすら続き、リズム重視のミニマルなトラックが多く気持ち良い。これ一つでSpotify半年分なので、聴き倒してやろうと頑張っているが、今のところ飽きる気配はない。
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17. Rian Treanor - File Under UK Metaplasm

Planet Mu からリリースされた Rian Treanor の2ndアルバム。ジューク/フットワークを下敷きにした硬質なテクノが、何と Nyege Nyege の影響を受け、シンゲリを飲み込んだ高速トライバル点描テクノにバージョンアップ。部屋中を飛び跳ねるサウンドと複雑なリズムは、とてもじゃないけど踊れる気がしない。
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16. 幻衛奇太郎 - 神様 Space God Theory/夢死

北海道にオープンしたレコードショップUPE MUZIKAの開店企画としてリリースされたミックステープ。チューニングの狂ったラジオの如く電子音と辺境音楽が炸裂するA面と、テレビのザッピングのようなゲゲゲの鬼太郎と三島由紀夫が織りなすB面による目くるめく聴取体験!
UPE MUZIKA


15. Julion De'Angelo / Viola Klein - We

EPだけどよく聴いたので。Julion De'Angelo によるトラックは、Viola Klein の原曲を利用したアフリカ版 Theo Parrish なディープハウス。Viola Klein はセネガルのンバラを取り入れた、打ち鳴らされるパーカッションとオルガンが競演するハウス。リズムに合わせて体を揺らしていると脳みそがドロドロに溶けていく。
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14. BUCK-TICK - ABRACADABRA

まず「Villain」を聞きます。エレクトロニクス、ロック、今井寿。100%BUCK-TICKです。続く「凍える」で櫻井敦司の美声に酔いしれたあと、オール50代の昭和世代による昭和歌謡な「舞夢マイム」を堪能し、その後の「ダンス天国」を受け入れられたのならもう大丈夫。きっと次のアルバムも手に取ることになるでしょう。
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13. DJ Fett Burger - Thank U 4 Letting Me Live My Life (B.G.F.D.F.R)

ノルウェー出身のアーティストによる、ソロとしては初のアルバム。パーカッションは力強く大地を踏みならし、シンセは宇宙と交信している。ゆらゆらと不安定で脱力したようなハウスを中心に、長尺トライバルテクノやアシッドハウス、ディスコまでも聴かせてくれる。ハッピーでクラブミュージックへの愛が溢れた作品。
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12. FUJI||||||||||TA - iki

自作だという鍵盤の無いパイプオルガンを駆使したアンビエント/ドローンミュージック。シンプルで無骨な見た目とは裏腹に豊かな音を奏で、一息一息、楽器が呼吸をしているよう。また終始カタカタと鳴っている器具の操作音も、人の存在感を感じさせる良いアクセントになっている。
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11. Omar S - Simply

誰かに気に食わないこと言われたら、それを力に新しい作品を作る…と以前語っていた通りの今年2枚目のアルバム。『You Want』で見られた艶っぽさやゴージャスさよりも、骨組みだけのような簡素さとローファイな質感。ディスコをサンプリングしながらも、ミニマルでタイトなハウスに痺れる!
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10. Speaker Music - Black Nationalist Sonic Weaponry

DeForrest Brown Jr. のプロジェクト Speaker Music のアルバムは、フリージャズとデトロイトテクノに由来する怒りの滲んだ複雑で衝動的なリズムの嵐に、抗議を表明するスポークンワードやサイレンの音などが乗せられている。Black Lives Matter と強くリンクした今年を象徴する作品の一つ。※知らぬ間にラストに30分強のトラックが追加されていたので、リリース直後に買った人は再ダウンロードするといいと思います。
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9. Jon Collin & Demdike Stare - Sketches Of Everything

みんな大好き Demdike Stare の新作は、ギタリスト Jon Collin とのコラボレーション。ギターとフィールドレコーディングが並走して美しい風景を描くこともあれば、ギターを歪ませリバーブの海に放り投げられもする。あくまでもギターが主役であるが、かつてのダークアンビエント、ダブテクノの頃を彷彿とさせる。
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8. Shackleton / Zimpel - Primal Forms

コラボが続いている Shackleton の新たなパートナーは、ポーランドのクラリネット奏者 Wacław Zimpel。シャーマニックで呪術的な“らしさ”は損なわずに、ジャズと宇宙への接続を感じさせる。Zimpel はクラリネット以外の多様な楽器も演奏しているようで、より祝祭的な空間を生み出している。
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7. Various Artists - Dixon Presents Transmoderna

コロナ真っ只中に配信された Boiler Room での Dixon のパフォーマンスが気持ち良すぎた。ゆらゆらと音に浸っていられる。去年辺りはクラブミュージックから心が離れていたけど、これ聴いてやっぱり良いなとまた思えるようになったかもしれない。
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6. Masma Dream World - Play At Night

ガボンとシンガポールにルーツを持ち、NYを拠点として日本文化に影響を受けたという Devi Mambouka のデビューアルバム。見てはいけない儀式を見てしまったかのようだ。ボーカルは、歌やスポークンワードというより祈祷といった趣で暗闇を彷徨う。トラックは地を這うようなベースと、パーカッションやフィールドレコーディングによるもので、極めてシンプルだがインパクトは大きい。
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5. Ahti & Ahti - Why Do Birds Suddenly Appear?

ある集落の日常、羊や水鳥、虫の鳴き声、水の音など。それらと電子音が交互に現れるが、時には混ざり合ったり分離したりを繰り返すことで音の境界は曖昧になっていく。今年スタートしたレーベル Ouidah からリリースされた Marja Ahti と Niko-Matti Ahti による素晴らしい作品。
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4. Beatriz Ferreyra - Huellas Entreveradas

82歳になるというアルゼンチン出身の電子音楽家。音がまるで生き物のようで、空間を絶えず走り回っている。楽器や人、動物、テレビなどの音を細かく細かく細分化し、それを連続させてみたり別の素材と繋げてみたり。どこかで聞いたことがあるような音による、一度も聞いたことがない音楽。
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3. Timo van Luijk & Frederik Croene - Ipnopedion

物憂げなピアノとSFチックな電子音に男の独白。時間が進むにつれ、サウンドは緊張感に包まれ恐怖を煽る。状況が悪化したのか、続く2曲目はざらざらとした電子音とピアノを中心に、漂うような浮遊感をもたらし悪夢へと誘われていく。かつて宇宙人にさらわれたと自称する男の物語。
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2. KMRU - opaquer

ケニア、ナイロビを拠点とする KMRU こと Joseph Kamaru の作品。水の中にいるような前後不覚に陥るノイズに全体が覆われ、時折クリアに聴こえる得体の知れない音によって立体感が強調され、圧倒される。アフリカ出身という情報から、無意識にトラディショナルな音を聴くつもりでいた頭に衝撃と戸惑いと感動がやってきた。年間ベストを書くにあたって『Peel』もたくさん聴いて迷ったけれど、このアルバムの音が好き。
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1. Teno Afrika - Amapiano Selections

南アフリカを拠点とする、21歳の Lutendo Raduvha によるデビューアルバム。甘美なメロディは控えめであったり曲の後半まで出てこないことも多く、基本的にオルガンとパーカッションとベースで構成される。特に彼一人の名前がクレジットされているトラックはその傾向が強く、他のアマピアノとは一線を画す。装飾も少なくシンプルであるが、生命力にあふれており気分の浮き沈み問わずに聴いていられた。最高!
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